CASE STUDY
変更依頼を、AIが仕様から本番反映まで進める — AIエージェント「Mr.AI」の社内運用事例
最初に
当社の業務ツール「projectAI」には、AIエージェント「Mr.AI」が組み込まれています。Mr.AI は質問に答えるだけではありません。お客様からいただいた変更依頼を、原因の調査、仕様の作成、実装、テスト、本番環境への反映まで、自分で進めます。
この事例では、projectAI 全体ではなく Mr.AI に絞って、次の3点をまとめます。
- Mr.AI が何を、どこまで自動で進めているか
- 人がどこで判断し、AIに何を任せていないか
- 2026年7月から運用して分かったこと
projectAI 全体のAI機能と、データ・費用の扱いは projectAI の全社運用事例 にまとめています。
解決したかった課題 — 答えるAIだけでは、仕事は進まなかった
受託開発では、システムを公開したあとも、お客様から変更依頼が続きます。「この項目を追加したい」「この画面でエラーが出る」。一つひとつは小さな依頼でも、対応の流れは毎回同じです。
依頼を読み解く → 原因を調べる → 仕様にまとめてお客様に確認する → 実装する → テストする → 確認していただく → 本番環境に反映する → 報告する
この流れの多くは、判断ではなく「運ぶ」仕事です。そして、工程と工程の間には必ず待ちが生まれます。担当者の手が空くのを待つ。お客様の確認を待つ。東京とカトマンズの時差を待つ。依頼が増えるほど、待ちは積み重なります。
Mr.AI は2026年7月の稼働当初、案件の記録をもとに質問に答える役割から始まりました。記録を探して答えることはできても、変更依頼そのものは、人が工程から工程へ運ぶしかありませんでした。そこで、Mr.AI に「答える」だけでなく「進める」役割を持たせることにしました。
Mr.AI が担っている業務
Mr.AI の仕事は、大きく「答える」と「進める」の二つです。
答える — 案件の記録をもとに回答する
| 使う場面 | 使う人 | すること |
|---|---|---|
| 社内アシスタント | 社員 | 全案件の記録を横断して答える |
| チャットでの「@Mr.AI」 | 社員・お客様 | スレッドの中で、その案件の記録をもとに答える |
| お客様向けアシスタント | お客様 | お客様が見られる範囲の情報だけで答える(案件ごとに有効化、既定は無効) |
| 社内チャットのボット | 社員 | 普段使っている社内チャットの上で答える |
| 記憶の統合 | (自動) | 毎日、直近のチャットの仕分け結果と担当者の訂正を要約し、次の仕分けに使う |
答えるときは、その場で読んだデータだけを根拠にします。回答の下書きを、読んだデータとメンバーの一覧に照らし合わせ、根拠のない人名や数値は取り除いてから返します。
進める — 変更依頼を、仕様から本番反映まで
変更依頼が登録されると、Mr.AI は次の順に仕事を進めます。図の人のマークが、人が承認する関門です。

- 原因の調査(不具合の場合): プログラムを調べ、原因の見立てを依頼のスレッドに投稿します。絞り切れないときは、お客様に質問します。
- 仕様の作成: 何をどう変えるか、受け入れの基準、見積工数をまとめます。分からない点は、番号を付けて質問します。
- 実装と自動テスト: 仕様どおりにプログラムを変更し、自動テストを実行します。失敗したら直して、もう一度実行します。
- 取り込み: テストに合格した変更を、本体に取り込みます。
- 開発環境での確認: 開発環境に反映し、確認の手順を添えて、確認をお願いします。
- 本番環境への反映: 本番に反映し、反映が成功したことを確かめてから、完了を報告します。
この間も、止まっている作業がないかを10分ごとに見回る仕組みが動いています(後述)。
2026年7月下旬に稼働を始め、8月中旬から10月初めまでに、Mr.AI が作った変更が少なくとも21件、当社製品の本番用のソースコードに取り込まれました。ソースコード管理の履歴から、Mr.AI の変更に付く決まった表記を数えた下限値です。
人が判断する部分との切り分け
決めるのは、AIではない
Mr.AI の設計で最初に決めたのは、「工程を進めるかどうかを、AIに決めさせない」ことです。
次の工程に進むかどうかは、AIの「できました」という自己申告ではなく、AIの外側にある結果で決めます。テストに合格したかどうかは、テストの仕組みが判定します。仕様でよいか、取り込んでよいか、本番に出してよいかは、人が判定します。工程を進める、取り込む、反映するといった操作は、決まった手順のプログラムだけが行います。
人が承認する4つの関門
| 関門 | 主に判断する人 | 判断の材料 | 承認しなかった場合 |
|---|---|---|---|
| 仕様 | お客様 | 仕様の要約、受け入れの基準、見積工数 | 修正を依頼すれば作り直し、却下すれば依頼を終了 |
| 取り込み | 当社の担当者 | 変更の内容と、テストに合格した版 | 修正の作業に戻る |
| 開発環境での確認 | お客様 | 確認の手順と、実際の画面 | 直して出し直す。2回を超えたら担当者が引き取る |
| 本番環境への反映 | お客様と当社 | 反映する変更 | 止めて、担当者が引き取る |
承認には、取り違えを防ぐ決まりを設けています。
- 承認したあとに中身が変わったら、承認はやり直しになります
- 古い版に対する承認は無視されます
- 承認と差し戻しが両方出たときは、差し戻しを優先します。差し戻すときは、理由の記入が必須です
- 誰がいつ何を判断したかは、すべて記録に残ります
承認には期限を設けていません。返事がないまま時間が過ぎても、AIが自分の判断で先へ進むことはありません。
任せる範囲は、案件ごとに6段階から選ぶ
どこまでAIに任せるかは、案件ごとに選べます。
- 原因の調査まで
- 仕様の作成まで
- 変更の作成まで
- 開発環境への反映まで
- 本番環境への反映まで(関門ごとに人が承認)
- 全自動
全自動を選んだ場合は、関門での承認を省き、「自動で承認した」という記録を残して進みます。それでも、次の歯止めは外しません。
- 人が依頼を「対応中」にするまで、作業は始まらない
- 一度に変更できる量に上限がある
- すべての自動テストに合格しないと、取り込まない
- 直しのやり直しには回数の上限がある
- 本番への反映が成功したことを確かめてから、完了にする
- いつでも止められるスイッチがある
AIに持たせないもの
- 金額と工数の情報: 金額や工数を扱う機能は、Mr.AI に渡していません。
- お客様の範囲を越える情報: お客様向けのアシスタントは、その案件で「お客様に見せる」設定になっている情報だけを使います。品質や費用の情報は、既定ではお客様に見せません。範囲外の質問には、決まった文言でお断りします。
- 自分の判断での連絡: Mr.AI が自分の判断で人に通知を送ることはありません。通知が届くのは、承認の依頼や停滞の知らせなど、あらかじめ決めた場面だけです。
- 機密性の高い案件での自動調査: 機密性の高い案件では、原因の自動調査を有効にしない運用にしています。プログラムを社外に出せない案件には、自社の管理環境で動くAIで実装する選択肢を用意しています(ローカルLLMの社内運用事例)。
運用して分かったこと
AIは、失敗するより先に止まる
運用を始めてすぐに分かったのは、AIの作業は「間違える」より先に「止まる」ということでした。テストが始まらないまま待ち続ける。反映が終わったのに「反映中」のまま残る。人が依頼を閉じたあとも作業が続く。どれも、AIの賢さではなく、工程と工程の受け渡しの問題でした。
いまは、10分ごとに見回る仕組みが、外部の実際の状態と照らし合わせています。テストの結果待ちが60分を超えたら担当者に一報し、3時間で止めて人に回します。依頼が閉じられたら作業は止まり、そこから再開することもありません。
推測で進めるより、聞いてから進める
仕様を作る段階で分からないことがあれば、Mr.AI は推測で進めず、番号を付けて質問します。質問は1回に3問まで、やり取りが3往復に達したら担当者に引き継ぎます。推測で作った変更を差し戻すより、最初に聞いておくほうが手戻りが少ない、という考え方です。
待ちは消えない。人の承認に集まる
AIが夜も動き続けても、承認の関門では人を待ちます。AIの作業が速くなるほど、待ちは人の側に集まります。そのため、承認の依頼は判断する人にだけ届け、判断の材料(仕様の要約、受け入れの基準、確認の手順)を一か所にまとめて、承認にかかる手間を減らしています。
AIに任せる範囲をどう考えたか、うまくいかなかった場面をどう直したかは、記事「AIに業務を任せるとはどういうことか」に詳しく書いています。
これから導入する会社への示唆
- 答えるAIから始めて、進めるAIへ広げる。 まずは記録をもとに答えるAIを動かし、業務の記録がAIの材料として足りているかを確かめます。
- 任せる度合いより先に、承認の関門を決める。 どの工程で、誰が、何を見て判断するか。これが決まっていれば、任せる範囲は後から段階的に広げられます。
- 止まったときに、誰に回すかを決めておく。 見回りの仕組みと人への引き継ぎ先がないと、AIの仕事は誰にも気づかれないまま止まります。
- AIの自己申告ではなく、外側の結果で進める。 テストの結果や人の承認のように、AIの外にある基準で工程を進めます。
- 判断と作業を記録に残す。 誰が何を判断し、AIが何をしたかが残っていれば、任せる範囲を広げるかどうかも、記録をもとに判断できます。
当社のAI導入支援では、この進め方を貴社の業務に合わせて設計します。最初は一つの業務で、一つのエージェントを動かすところから始めます。
よくあるご質問
AIが勝手に本番環境を変えることはありませんか。 ありません。本番への反映には、案件ごとに選んだ段階に応じて人の承認が入ります。承認を省く全自動を選んだ場合でも、人が依頼を「対応中」にするまで作業は始まらず、自動テストの合格、変更量の上限、反映の成功の確認といった歯止めは外しません。
ほかのお客様の情報を、AIが答えてしまうことはありませんか。 お客様向けのアシスタントは、その案件で「お客様に見せる」設定になっている情報だけを使います。利用者と案件の対応は二重に確かめており、範囲外の質問にはお答えしません。
AIが作った変更の品質は、どう確かめていますか。 自動テストの合格を取り込みの条件にしたうえで、開発環境で実際の画面を確認していただきます。AIの「できました」という報告ではなく、テストの結果と人の確認で判断します。
変更依頼の対応以外の業務にも使えますか。 「受け付ける、調べる、案を作る、人が確認する、反映する」という流れの業務であれば、同じ考え方で設計できます。まずは一つの業務で、調査や下書きまでをAIに任せるところから始めるのが基本です。
費用はどのくらいかかりますか。 業務の範囲や、つなぐシステムによって大きく変わるため、ご相談のうえでお見積りします。進め方と費用の考え方は AI導入支援 のページにまとめています。
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